音楽レビュー 「BOLERO(Mr.Children)」
どこまでも感情のうねりに身を任せて。
1997年にリリースされた『BOLERO』は、「深海」で描いた陰りを少しだけ和らげながらも、まだ迷いの渦中にいるような、不安定さと人間的な温度が感じられるアルバムです。「進もうとすること」と「立ち止まってしまうこと」の狭間にある言葉と音楽。それが『BOLERO』という作品の魅力なのかもしれません。
アルバム情報
アーティスト
Mr.Children
アルバム名
BOLERO
リリース日
1997年3月5日
収録曲
- prologue
- Everything (It’s you)
- タイムマシーンに乗って
- Brandnew my lover
- 【es】~Theme of es~
- シーソーゲーム ~勇敢な恋の歌~
- 傘の下の君に告ぐ
- ALIVE
- 幸せのカテゴリー
- everybody goes ‑秩序のない現代にドロップキック‑
- ボレロ
- Tomorrow never knows(remix)
全曲レビュー
prologue
短いインストゥルメンタルですが、このアルバムの空気感が伝わってくるはじまりの音です。不穏さやポップさを感じつつも、次第に音としてのまとまりが強くなっていき、次の曲に繋がります。シングルとはまた違った壮大なイントロのようです。
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Everything (It’s you)
愛する人に向けたまっすぐな想いを、大人びた言葉で包み込んだラブソング。誰かのすべてになりたいという気持ちは、決して軽いものじゃない。だからこそ、一歩ずつ確かめるように歌われていく言葉に、誠実さと温かみを感じます。サビで広がるメロディと共に、感情を乗せてシャウトする想いが胸に突き刺さります。
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タイムマシーンに乗って
軽快なリズムにのせて、どこか投げやりに聞こえつつも、正直な気持ちが伝わってくる1曲。一人のシンガーとしてのぼやきが、多くの言葉に乗せられてテンポよく展開していきます。音楽とまっすぐ向き合ってきたからこそ出てくる本音、流行や空気に合わせるということへの風刺など、脱力したような歌い方の中にも、熱量が感じられる一曲です。
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Brandnew my lover
鋭く重い音が鳴り続けるナンバー。今までの価値観を壊してしまうような、衝動的で挑発的なラブソングです。音の力強さに引っぱられるように、感情がどんどんむき出しになっていきます。“愛”という言葉を使わずに語る愛情のかたちは、どこか危うくて、それでも妙にリアル。この曲が持つざらっとした感触が、アルバムに新たな刺激を与えています。
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【es】~Theme of es~
人と人が分かり合えないもどかしさと、それでも通じ合いたいという願い。深く考えれば考えるほど、答えの見えない自分自身と向き合ったテーマの曲です。重たいテーマを携えながらも、メロディはどこか解放感があって、救われるような瞬間もあります。「自分って何?」という問いは、今聴いても変わらず胸に残ります。アルバムの時系列としては逆ですが、シングルではのちにリリースされる名もなき詩に繋がるような世界観です。
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シーソーゲーム ~勇敢な恋の歌~
エルヴィス・コステロをイメージしたPVもさながら、勢いとノリの良さが光る、軽快なラブソング。恋の駆け引きをシーソーにたとえて、ユーモアも交えながら描かれています。駆け引きの中にちらっとのぞく本気の想いが、この曲にほんのりと切なさを加えています。ライブではおまつり感がありますね。深く考えず、楽しんでみましょう!
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傘の下の君に告ぐ
鋭いギターとともに、どこか苛立ちにも似た熱が立ち上るロックチューン。整えられた日常の裏側で、いつのまにか失われてしまったものや、見て見ぬふりをしてきた現実に対する違和感があふれ出します。ぬるま湯のような暮らしへの疑問と、それでもそこに身を置いている自分への皮肉が歯切れよく投げかけられるような曲です。非常にテンポもよくかっこいい一曲です。
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ALIVE
緊張感のあるアレンジが印象的な、濃密で重たい1曲。「生きている」ことの実感を求めて、心の深い場所にまで潜っていくような感覚があります。痛みや葛藤に目をそらさず、それでも前に進もうとする力強さが、この曲の中には込められています。派手さはないけども、じわじわと迫ってくる迫力が心の中にずっと残ります。一夜限りの復活ライブで見せたALIVEのアウトロ展開は最高でした。
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幸せのカテゴリー
幸せとは何かを探るように、問いかけを重ねていく静かな曲。音数を抑えたアレンジとやわらかい歌声が、日々の中の小さな感情をすくい上げてくれます。「誰かの基準じゃなく、自分なりの幸せを見つけたい」そんな思いが丁寧に描かれています。派手ではないけれど、このアルバムの中では温かさが感じられるメロディーで、聴くたびに心にふわっと寄り添ってくれるような一曲です。
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everybody goes ‑秩序のない現代にドロップキック‑
勢いのあるリズムと鋭い言葉が印象的な、攻めの姿勢が前面に出たロックナンバー。タイトルにある“ドロップキック”の言葉どおり、行き詰まった現実や、型にはまった社会への怒りがストレートに表現されています。歪んだ世の中に対して不満を持ちながらも、理想だけで語れないもどかしさと、必死に食らいつこうとする感情が同居。それまでのミスチルの爽やかなイメージを、ロックバンドの印象へと変えていくきっかけになった一曲です。
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ボレロ
アルバムのタイトルを冠したこの曲は、美しさと不穏さが交差するような独特の空気をまとっています。繰り返すフレーズの中で、感情がじわじわと膨らんでいき、最後には飲み込まれそうになるほどの深さに達します。どこか夢の中のようで、でも確かにリアル。このアルバムの核となる静かだけど、深さが感じられる一曲です。ラストへのバトンタッチとなるアウトロの長さと余韻も素晴らしい。
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Tomorrow never knows(remix)
美しいイントロから始まる壮大なロックバラード。正しさも答えも見えない中で、それでも前に進もうとする人の背中をそっと押してくれるような一曲です。「心のまま僕はゆくのさ」というまっすぐなフレーズには、自分の信じる道を選び続けることの不安と決意が、同時に込められています。強さを鼓舞するというより、弱さごと抱きしめてくれるような優しさが伝わってきます。この曲もまた、Mr.Childrenの代表曲の1つですね。
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『BOLERO』には、明確なテーマや方向性よりも、その瞬間ごとの“感情の断片”が詰め込まれているように感じます。それは時に整わず、矛盾していたり、行き場のない想いだったりもするけれど、それこそが人の気持ちそのものなのかもしれません。きれいにまとめられた世界ではなく、ぐしゃぐしゃで、でもだからこそ正直でリアル。そんな楽曲たちがそっと寄り添ってくれるアルバムです。まっすぐではなく、時に寄り道をして、立ち止まりながら、それでも前に進もうとする。そんな人の姿を、そのまま音にしたような一枚です。

Mr.Children「深海」


