音楽レビュー 「versus(Mr.Children)」

迷いや揺らぎ、そして優しさの挟間で鳴り出した音。
それまでの明るく親しみやすい印象に加えて、少しずつ“影”や“本音”が見え始めた時期。このアルバムには、ポップさの奥にある迷いや揺らぎ、そしてそこから見つけた優しさが詰まっています。まだ若さの残るミスチルが、抱え始めた葛藤を音にしたような作品です。
アルバム情報
アーティスト
Mr.Children
アルバム名
versus
リリース日
1993年9月1日
収録曲
- Another Mind
- メインストリートに行こう
- and I close to you
- Replay
- マーマレード・キッス
- 蜃気楼
- 逃亡者
- LOVE
- さよならは夢の中へ
- my life
全曲レビュー
Another Mind
鋭いギターとぶつかるようなリズム。自分の中にある“もう一人の自分”と対話するような、挑発的なナンバーです。何かを壊してでも前に進もうとする強さと、その裏にある迷いや弱さが、共存しているように感じます。
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メインストリートに行こう
まっすぐで明るく前向きなロックチューン。道に迷ったときこそ、自分の足で進んでいこうという強い気持ちが感じられます。どこか不安を抱えつつも、それを吹き飛ばすような力強さが気持ちいい一曲です。
お気に入り:
and I close to you
誰かを想う気持ちがやさしく包まれたようなアップテンポなナンバー。近づいたと思ったら遠ざかる、そんな揺れる心模様がしっとりと響きます。何気ない言葉が、かえって深く心に残るような余韻のある曲です。
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Replay
「もし、あのとき戻れたら」──そんな想いが静かに広がるバラードです。過去への後悔も、優しさに変えて受け止めるような包容力を感じます。声とピアノが丁寧に寄り添っていて、なんだか海辺で聴きたくなる一曲です。
お気に入り:
マーマレード・キッス
ちょっと大人びたラブソング。甘さとほろ苦さが入り混じる、まるでマーマレードのような恋を描いています。スーっと染み入るようなメロディと少し背伸びした言葉が、若い頃のミスチルらしい魅力を放っています。
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蜃気楼
現実の中にある、曖昧でつかめない感情がゆらゆらと漂うような曲です。幻想的なタイトル通り、心の奥にあるぼんやりした不安や夢が描かれています。静かなサウンドの中に、見えない何かと向き合う強さが感じられます。のちにリリースされる深海っぽさが顔を覗かせています。
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逃亡者
ちょっと不器用で口下手な感じがかえってリアルで、心に残ります。「逃げたくなる気持ち」そのものを否定せずに描いていて、素直に寄り添ってくれる一曲です。「KIND OF LOVE」に引き続き、JEN(鈴木英哉)のボーカルも新鮮です。
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LOVE
ストレートなタイトルに込められた、まっすぐな愛のかたち。言葉にすると照れくさいけれど、心の底から溢れてくる想いがそのまま音になっています。ライブバージョンの最後の「LOVE LOVE LOVE」はとても力強く響いてきます。
お気に入り:
さよならは夢の中へ
別れをテーマにした曲ですが、どこか柔らかくて優しい印象です。夢の中でまた会える、そんな想像が少しだけ心を救ってくれるような歌です。終わりだけじゃなくて、そこに残る“ぬくもり”も感じさせてくれます。
お気に入り:
my life
最後に置かれたこの曲は、静かで誠実な人生のテーマソングのよう。派手ではないけれど、自分の「今」をそのまま肯定してくれるような言葉が並びます。ふだんの生活のなかにある幸せや迷いに、静かに光をあててくれる曲です。
お気に入り:
『versus』というタイトルのとおり、このアルバムでは“対峙”する場面がいくつも描かれています。過去と今、自分と他人、不安と希望。さまざまな「ふたつのもの」が、音の中で向き合っています。でもそのぶつかり合いは、決して痛々しくはなくて、どこか優しくて、あたたかい。何かに悩んだり、自分と向き合いたいときに、そっと耳を傾けたくなる1枚です。

Mr.Children「versus」